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給与交渉も自己主張も「当たり前」——シリコンバレーで生き残る日本人エンジニアたちの流儀

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給与交渉も自己主張も「当たり前」——シリコンバレーで生き残る日本人エンジニアたちの流儀

Photo: Japanese engineer working laptop Silicon Valley tech office, via i.shgcdn.com

サンフランシスコ・ベイエリアの朝は早い。スタンフォード大学近くのカフェでラップトップを広げながら、ある日本人エンジニアはこう言った。「最初の1年は、ミーティングで発言するだけで冷や汗をかいていた」。

彼は東京の大手SIerを経て、30代でシリコンバレーのスタートアップに転職した。今ではシニアエンジニアとして数十人のチームをリードするが、そこに至るまでの道のりは、決して語学力だけの問題ではなかったという。

「報連相」は通じない——コミュニケーションの根本的な違い

シリコンバレーで働く日本人エンジニアが口を揃えて言うのが、「仕事の進め方の根本が違う」という感覚だ。日本では「報告・連絡・相談」が美徳とされるが、アメリカのテック企業では「何をやったか」よりも「何を達成したか」が問われる。

Googleのサンノゼオフィスに勤務する田中さん(仮名・38歳)は、こんなエピソードを話してくれた。「上司に進捗報告をしに行ったら、『で、あなたは何が必要なの?』と返された。助けを求めるのが目的じゃなかったのに、そう受け取られた」。

アメリカの職場では、ミーティングは「情報共有」ではなく「意思決定」の場。発言しない人間は、意見がないか、貢献していないかのどちらかだと見なされる。この前提の違いが、日本人エンジニアにとって最初の大きな壁になる。

給与交渉は「ゲーム」だと知ること

もうひとつのカルチャーショックが、給与交渉だ。日本では「お給料をくれるだけでありがたい」という感覚が根強いが、シリコンバレーでは給与交渉は当然のプロセスとして組み込まれている。

メタ(旧Facebook)で働く山田さん(仮名・35歳)は、転職時の経験をこう振り返る。「最初のオファーで即OKしたら、同僚に『それは交渉の余地があったよ』と言われた。後で知ったけど、提示額から15〜20%アップするのは珍しくない」。

LinkedInやLevels.fyiといったサイトで同職種の相場を調べ、複数のオファーを競わせるのが一般的な戦略だ。「交渉は失礼」という感覚を捨てることが、まず第一歩になる。実際、採用側も「交渉してくる候補者のほうが自己評価が明確で仕事ができる」と見る傾向があるという。

昇進の見えない壁——「バンブーシーリング」の現実

一方で、シリコンバレーが完全なメリトクラシー(実力主義)かというと、そう単純でもない。アジア系エンジニアの間では「バンブーシーリング(竹の天井)」という言葉がある。個人貢献者(IC)としては高く評価されても、マネジメント職への昇進が頭打ちになる現象だ。

アップルのシニアエンジニアを経て現在は独立した鈴木さん(仮名・42歳)は、「技術力で評価されてもリーダーシップの機会をもらえない、という経験をした日本人エンジニアは少なくない」と語る。「声が大きくて積極的にビジョンを語れる人が昇進しやすい文化の中で、どう存在感を出すかは戦略的に考える必要がある」。

彼が実践したのは、「スポンサーを見つけること」だ。メンターは話を聞いてくれる人だが、スポンサーは昇進の機会に際して「あいつを推薦する」と声を上げてくれる人。この違いを意識してネットワークを築いたことが、キャリアの転換点になったという。

日本人であることを「強み」に変える

しかし、日本人であることが足かせになるわけではない。むしろ、それを武器にしているエンジニアも多い。

「日本的な丁寧さや品質へのこだわりは、コードレビューや設計の場面で本当に評価される」と話すのは、サンタクララのスタートアップでエンジニアリングマネージャーを務める中村さん(仮名・40歳)。「ドキュメントをきちんと書く、バグを再現手順付きで報告する——これが当たり前にできる人は、チームに重宝される」。

また、日本市場への理解が直接ビジネス価値につながる場面も増えている。グローバル展開を狙うスタートアップにとって、日本語話者でかつ日本のユーザー行動を理解しているエンジニアは希少な存在だ。

「孤独感」とどう向き合うか

キャリア面だけでなく、精神的な側面も見逃せない。シリコンバレーには日本人コミュニティが存在するものの、仕事上では孤立感を覚える瞬間が少なくないという。

「飲み会がない代わりにハッピーアワーがあるけど、あの雑談の文化はなかなか慣れない」と苦笑するのは、転職して2年目の若手エンジニア・佐藤さん(仮名・28歳)。「でも、日本人エンジニアのSlackグループや勉強会があって、そこで情報交換できるのは助かっている」。

ベイエリアには「JAWS-UG(AWS User Group Japan)」のローカルチャプターや、日本人テックコミュニティの非公式ネットワークが点在する。こうしたつながりが、孤独感の緩和だけでなく、転職情報や業界トレンドの共有にも役立っているようだ。

それでもシリコンバレーを選ぶ理由

取材を通じて見えてきたのは、シリコンバレーで働くことへの「割り切り」ではなく、「主体的な選択」だということだ。

「日本にいたら絶対に経験できないスケールの仕事ができる。それが全て」——田中さんはそう言って、次のミーティングへと席を立った。

教科書には載らないリアルがある。そのリアルを知った上で飛び込むことが、シリコンバレーで生き残るための最初の一歩かもしれない。

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